ハワイ(HAWAII)
職場の先輩のN氏と最終日に遂に意見が対立。ダイビングはダイビングでも、N氏はスキューバ、俺はスカイがやりたいというワケだ。そこで別行動ということになった。
朝、迎えのバスが来たので乗り込むと、日本人ばかりだった。15人くらいで、男女比は半々ぐらいか。ちなみに予想通りというか、一人で参加していたのは俺だけだった。バスは北上し目的地に到着。デリンハム飛行場というところで、軍事用の飛行場のようである。ここでまず事務所の中に入り、ビデオを見せられ、その後で念書にサインをさせられた。内容は、死んでも損害請求は致しませんというものだ。そして、料金の精算を済ませる。オプションでビデオや写真の撮影があるのだが、残念ながら風が強い為、今日はダメとのこと。折角だから写真くらいは撮って欲しかったのだが…。
さて肝心のスカイダイブだが、勿論一人でやるワケではない。タンデムジャンプというやつで、玄人と鎖で繋ぎ、背後霊のように後ろについて飛んでくれるというものである。その命を預ける相手として紹介されたのはデビッドという男、恐らく軍人でアルバイト感覚なのだろうな。まずは地上で簡単な説明を受ける。手順は、"ワン、ツー、スリー、バンザイ"というものだ。そして、いよいよセスナに乗り込む。俺が操縦席と背中合わせにして後ろ向きに座り、俺と向かい合うようにしてデビッドが座った。ところが、なかなかドアが閉まらない。何度もトライしてようやくドアを閉めることが出来た。おい、おい。大丈夫かよ?周りを見回すと、内部もボロボロ。だいぶ、ガタが来てるなあ。セスナの中にいるより、早いとこセスナの外に飛んでしまったほうが安全かも知れんな。デビッドはというと意に介さず、新聞を読んでいる。その横を見ると外人の女の人がいた。軽く会釈をした。
セスナは無事に飛び立ち、地上からかなりの距離までやって来た。聞くと、13000フィートだそうだ。確か1フィートが30cmだから、3900mということか。富士山より高いということだな。そうこうしているうちにデビッドが動きだした。俺を前に向かせると鎖で二人を結びつけた。そしてセスナのドアを開け放った。風がビュンビュン吹いていて寒い。緊張の度合いが高まる。いよいよか〜。膝をついた態勢で横にずれて、開いているドアのほうに近づいた。後ろにいるデビッドが俺に声をかける。「ワン」。"ワン"というのは右足を横に踏み出すことだ。しかし、デビッドが指差したのはセスナの外にあるちっぽけなタラップだ。恐くて躊躇し、足を踏み出せなかった。すると、デビッドがさらにキツく「ワン!」。まるで追い立てられるように、右足をタラップに乗せた。続いて、「ツー」。両腕を胸の前で交差させた。「スリー」。上体を右に傾けた。「バンザイ!」。両腕を広げ、まさにバンザイの態勢で空に飛び出した。
夢中なのだが意外に気持ちがいい。下の景色が見たいので下を向くのだが、それはいけないらしくてデビッドが俺の首を前に強制修正させる。暫くしてパラシュートが開いた。マンガだと鳥がパラシュートをぶち破ったりするが、まあ現実にはないだろうし、取りあえず命は助かりそうだということでホッとする。ノースショアの風が冷たい。宙を浮いているから足がブラブラするワケだが、それを見ていると現実を冷静に受け止めてしまい、ちょっと鳥肌が立つ。デビッドが指を差し、あっちがアメリカ、あっちが日本と説明してくれた。あとは着陸だ。パラシュートは旋回しながら、目的地へと向かう。左右の紐を引いて、方向を調整していくのだが、結構難しそうだな。序々に地上が近づいてきて、オモチャみたいに見えた家も本当の家に見えてきた。非現実の世界から現実の世界に舞い戻って来たような気分だ。足をうまく上げて着陸成功。ファーストダイブは大成功だった。
上を見上げると、もう一つのパラシュートが降りてきた。さっきセスナの中にいた女の人だ。お互い近づくと自然に抱き合った。聞くとマウイ島から1人で来たとかで、30歳になった記念なのだそうだ。すぐに別れてしまったが、お茶くらいしておけばよかったな…。