メキシコ(MEXICO)

 キューバからの帰りに、短期で立ち寄ったメキシコでの予定は以下の通りであった。

  1月24日(金) 16:00カンクン着(メキシコ入国)
  1月25日(土) 09:00発のバスで、カンクンからチェチェン・イツァ遺跡へ
           16:30発のバスで、チェチェン・イツァ遺跡からカンクンへ
  1月26日(日) 06:50カンクン発ダラスへ(メキシコ出国)

 24日の夕方、予定通りカンクンに到着。安ホテルを見つけてチェックインすると、8時にアラームをセットして22時頃早々に就寝した。キューバでは睡眠時間をかなり削って遊んでいたのでヘロヘロ。疲労はピークといった感じである。ここで10時間の睡眠をとれば、体力もかなり回復するであろう。

 目が覚めた。ぐっすり寝れたという充実感でいい感じである。しかし、こんなに寝たのにまだ8時になっていないのかなと思い、時計を見て愕然とした。ナ、ナ、ナント!時計の針は12時を指しているではないか!9時発のチェチェン・イツァ行きのバスはとうの昔に出発してしまっている。キューバからの帰りは乗り継ぎの関係でカンクンに一泊しなければならなかったため、どうせならマヤ文明の遺跡でも見ておくかと思い、わざわざキューバを一日早く切り上げてカンクンでの滞在を一日増やしたというのに、全てがご破算になってしまった。しかし、どういうことだ?目覚まし時計を無意識のうちに止めてしまったのか?しかし、愛用のアラーム付き懐中時計をチェックすると、スイッチはONのままである。じゃあ、鳴ったのに気付かなかったか、故障で鳴らなかったかのどちらかということか?ただ、俺は電話の呼び出し音など一定のリズムで連続する機械音には凄く敏感なので、気付かなかったとは考えにくい。じゃあ、故障かい!こんな時に故障するとは何とツイてないことか。しかしまあ、過ぎてしまったことは仕方ない。マヤ文明の遺跡はチェチェン・イツァ以外にも色々あるし、またカンクンには改めて来ることにしよう。そう気持ちを切り替えると、再び眠気が襲ってきた。

 再び目が覚める。時計を見ると5時。更に5時間眠ったのか。カーテンを開けて外を見ると既に薄暗い。今日は太陽を見ることなく終わってしまった。しかし、よく寝たなあ。昨夜の22時からだから、19時間眠ったということになる。まあ、折角メキシコに来たことだし、後でタコスでも食うか〜とか思いながら、TVを付けてぼーっと見る。チャンネルを変えていると、「マッハGO」を放送しているのに遭遇した。おおっ!懐かしい〜。夢中になって見ている内に時間は6時過ぎになっていたのだが、ここである異変に気がついた。何かさっきと比べて、外が明るくなっていないか?そういえば鳥のさえずりなんぞも聞こえるのだが…。こういうのって、朝の状景だよなあ…。ここで急に冷い汗が流れ始めた。ひょっとして…、今は朝なのか…?25日の夕方6時のつもりだったのだが、まさか今は26日の朝6時?思いもしない展開に、ソワソワし始める。血の毛が引く。たまらなくなって、部屋を出てホテルのフロントへ。すると、おじさんが毛布にくるまって眠っていた。決して夕方ではありえない光景である。叩き起こして訊ねた。「すみません!今日は何日ですか!?」「え…、え〜っと、26日。」「26日!?26日の何時!?」「6時。」「朝の!?」「朝の6時。」「すぐにチェックアウトします!!!」部屋に駈け戻り、荷物を鞄の中にぶち込むと、鍵をおじさんに渡し、ホテルを飛び出した。

 タクシーをすぐに捕まえ、一路空港へ。現在6時30分。フライト時間は6時50分。空港までは確か車で20分。つまり、到着時間=フライト時間だ。果たして間に合うのか?リコンファームは済ませてあるから、30分くらい待ってくれないのだろうか?今はこの僅かな希望にすがりつくしかない。タクシーの運転手に「急いで下さい。」と言うと、「何時のフライトなの?」と聞き返してきたので、「6時50分。」と答えると運転手は時計を見て「ヒュ〜。」「いやあ、あの…寝過ぎてしまって…。」と言うと笑われた。そう笑うなよ、と思いながら、しかし一体どういうことだ?と考える。寝たのは24日の22時、一旦目覚めたのが25日の昼12時、それからまた寝て次に起きたのが26日の朝5時、睡眠時間31時間?んなバカな。ヘミングウェイ「老人と海」のサンチャゴも顔負けの眠りっぷりではないか。

 タクシーが空港に到着。時計を見ると6時48分。必死に走って、アメリカン航空のチェックインカウンターに飛び込んだ。「6時50分発の飛行機に乗りたいんですが!?」しかし、そこで返って来た女性係員の返答は「GONE」という残酷なものだった。あ〜、やってしまった!こんな事は初めてだ〜!どうしよう?代わりの飛行機をお願いしなければいけないのか?しかし席は空いているのだろうか?そもそも今日のフライトはまだあるのか?それに仮にダラスまで行けたとしても、日本への飛行機はあるのか?待てよ、このチケットは変更不可だったっけ?とすると、新たにチケットを購入するのに金が要るのか?金、持ってたっけ?いや、クレジットカードがあるからそれは問題ないか?様々な考えが瞬時に頭の中を錯綜する中、ガックリとうな垂れる自分を横目にチケットをじーっと見ていた係員が一言、「コレ、26日のチケットですけど。」「…。」ワケが分からない様子の自分に向って再び「これは26日のチケット。今日は25日よ。」「…。え〜っと。今日は25日?」「ええ。」「本当に25日?」係員が笑い出した。「いや…、ええっと、寝過ぎて日付が分からなくなってしまって…。」と言うと、大笑いして隣にいたスタッフにも説明して多ウケの様子。半信半疑で呆然としたまま、そこを立ち去った。 しかし、本当に25日なのか?つまり最初に目覚めたのは24日の24時でたったの2時間しか寝てなかったということなのか?いやいや、そんなハズはない。あの起きた時の充実感は2時間程度の睡眠で得られるシロモノではない。きっとあの係員が勘違いをしているか、対応が面倒だから嘘をついているんじゃないのか?その後、空港の出発ロビーには日付を聞き回る怪しい日本人の姿があったという。。。

 「Perdon?Cuando hoy? Enero Veinty-cinco o Veinty-seis?」(すみません。今日はいつですか?1月25日?それとも26日?)無茶苦茶な文法のスペイン語だと思うが、必死になって聞けば通じるものである。4人聞いて3人から25日という回答を得た(1人には分からんと言われた)。しかし、スラッと答えたのは1人だけで、あとの2人は結構怪しかった。ただ、どうやら25日らしいということは理解できたし、ここにいつまでいてもしょうがない。それにさっきのホテルのおじさんの26日という答えは何だ?もう一度聞き質さねば。ということで、ホテルに戻ることにした。念のため、タクシーの運ちゃんにも同じ質問をぶつけてみる。すると返ってきた答えは「26日」。「ナニ!?」と過剰な反応を示して気色ばむ俺に驚く運ちゃん。「ええっと、待ってね・・・。22、23、24…、今日は25日だ。」25日なのね?まだ信用できねえ。しかし、ホテルに着いたらあのスタッフに何て言おうかと考えていると、運ちゃんが「その行こうとしているホテルは幾らだい?」「30ドル。」「30ドル?高いねえ。20ドルのところを知ってるよ。そこに連れてってやろうか?」事情を説明するのも面倒だったので、予約しているからと適当に言って誤魔化した。そうこうするうちにタクシーはホテルに到着した。

 中に入ると、さっきのおじさんは既に起きていた。再び現れたハポネスに不思議そうな表情を浮かべるおじさん。「今日は何日?」という質問を再びぶつけると、「26日。」と平然と答えたため、「そんなことないでしょ!?」と血相を変えた俺にタジタジになったおじさんはカレンダーを見て「ええっと、今日は…25日。」「25日だよね?」「そうそう25日。で、君がチェックアウトするのが26日だね。」「…。」文句を言いたかったが、残念ながらそこまでの語学力は備わっておらず、不機嫌に鍵を受け取ると部屋にそそくさと戻った。

 その後、無事に9時発のバスに乗って予定通りチェチェン・イツァへ。遺跡群に圧倒されながらも、キツネにつままれた感がずーっと拭えないままだった。


※チェチェン・イツァ
 1988年に世界遺産登録されたマヤ文明の遺跡。この数年後に転落事故があったそうで、登頂不可に
 なってしまったとのこと。。


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