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COLUMN
むっちゃん

2001.10.20


むっちゃんまんじゅうというまんじゅうの噂をこれまで幾度となく聞かされてきた。しかし、食べたことがなかった。むっちゃんまんじゅうというのはムツゴロウの形をした今川焼きというか回転焼きのようなものだという風にきいていたので、僕の中ではたい焼きの変形版だと認識していた。ムツゴロウといってもムツゴロウおじさんではなく、有明海に住むハゼのようなあれだ。食欲の沸くような生き物ではない。そんなイメージもあって今まで食べたいと思ったことがなかった。しかし、気にはなっていた。
昨年のことだった。会社の同僚と小戸のマリノアシティへ食事しに向かっていた。当時、マリノアシティはオープンしたばかり。福岡の人間は熱しやすく冷めやすい。ここ数年、毎年のようにこういった複合施設がオープンし、三越の進出などで物販の売り場面積ばかりが、かなり増加した。
そんな最中のマリノアシティ。平日の昼間とはいえ駐車場自体に長蛇の列。なかなかゆっくり食事もできない仕事をしていたので同僚と美味くて早くて簡単なところを考えた。そこで閃いたのがむっちゃんまんじゅうだった。元来西新の店は有名なのだが、小戸の、それも彼曰く、オサダにあるという。聞いたことが無い。そんな心配を抱えつつ、現場へと向かった。
オサダが見えてきたがそれらしきものは一向に見当たらない。オサダがあれなんで店ごと無くなったと思った。それでも、同僚は駐車場に車を停めて自販機コーナーに向かって歩き出した。彼が店を指差して教えてくれた。その店とは黄色いプレハブで中に人がいることも見過ごしそうな建物というか倉庫のような、郊外で見かけるホットドッグ屋さんのような感じの店だった。店の窓口付近に行くと食券が売っている。客がいなくて従業員がそこにいるのに食券を買う煩わしさ、そしてまんじゅうを買うのに食券を買う滑稽さがどうもしっくり来なかった。そこで新たな事実が発覚した。むっちゃんまんじゅうとは中身が餡、だけではなかったのだ。カスタードくらいまで想像できる範囲ではあった。しかし、そこにはカスタード・ハムエッグ、そしてチョコレートがあったかな。こんな種類をみて食券を買う僅かな時間の間、それらの味を思い浮かべ、想像し、食べてみたいと思えるものを選択しなくてはならなかった。しかしながら、どう考えても納得のいくものはない。結びつかない。むつごろう+たい焼き…想像できなかった。結局同僚におすすめを聞くとなんとハムエッグというのでそれに賭けることにした。
少し肌寒いなか風に吹かれながらまんじゅうが焼けるのをスーツ着て待つ姿は、なんだか間抜けだった。数分後、ブツは出来上がった。初対面のムツゴロウくんは回転焼きのあの色と全く同じ、材質も同じだろう。見た目はグロテスクなものを想像していたが、以外にも可愛い。気に入った。愛嬌のあるデザインだ。そして食する。こんな食べ物を食べるとき、頭から食べるべきか、尻尾から食べるべきか、また優柔不断に迷ってしまう。しかし、頭から食べないと具が入ってなさそうな気がして、頭にガブリとくらいついた。不覚にも見た目で甘いイメージがあって、口にしたそれは、全く異なる味がした。しかし、所謂ハムエッグ。それもかなりの出来だった。卵料理に関してはかなりの拘りをもつ僕が納得できる出来で、どこがいいのかというと黄身の焼き具合が絶妙だった。半熟のちょいカタ。思わず、おばさんの顔をみて加賀丈史のように微笑んでしまった。ハムとその半熟の卵、そしてこれは、マヨネーズ。食感は素晴らしかった。
むっちゃんまんじゅう。福岡でこのまんじゅうは最早たい焼きより有名かもしれない。親しまれているかもしれない。もっと早く食べるべきだった。それ以来、小戸のオサダは素通りできなくなった。

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