COLUMN | ||
伝説のライヴ | ||
2001.10.31 |
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「大雨洪水雷雨注意報」。雨天決行という言葉。いろいろな憶測、言葉が飛び交う中、ぽたりと滴が頬を濡らした。もちろん傘は3本あった。しかしながら、騒然としたオーディエンスをあざ笑うかのようにあっという間にどしゃ降りになり、傘なんてあまり意味がない。開始時間直前、閃光が走り、まるで魔法のように目の前にずうんっと落ちる。かなりヤバイ。誰もが、中止だと思ったに違いない。普通に登山していても中止、若しくは何処か雨宿りするだろう。車に乗ればとりあえず濡れなくてすむ。7万人の観衆がなりゆきを見守った。アナウンスが決行を告げると、遂に伝説のライヴ『ビートチャイルド』は始まってしまった。ステージですら屋根を横切って振り込んでくる雨。嵐の中、ライヴは続いた。どれだけのPAが、楽器がイカレタだろうか。夏とはいえ、高度も高く、気温が低めのうえに寒さが襲う。足元の草原は川のように水が流れ、土の中に足が吸い込まれていく。コンディションとしては史上最悪の事態だった。僕らは雨の中飛び跳ねて騒いでいたので気付かなかったが、プレス用、警備用、アーティスト商品販売用のテントもすべてが救護用に使われたらしい。 遂に連れのひとりがうずくまりダウンし、僕らも身の危険すら感じた時間帯にお目当てのアーティストをほぼ見終わると、車の中へ逃げ込んだ。たしかスライダーズをみたあとだった。一歩一歩地面に足が埋まりこむ。 車に乗り込むとずぶ濡れになった体を拭い、自分の足元を見て絶句。靴が片方無くなっている。しかも、残っている方の白かった靴は泥で茶色く変色している。周りをみると同じ様に車に乗っている人も少なくなかった。車の中で窓を開けてうとうとしながら尾崎豊や佐野元春を聴いた。やがて明るくなり朝がきて幕を閉じた。 あの時出演したアーティストたちのことやライヴの内容は、残念ながら記憶が薄れている。しかし、あの雨や地面の感触は今も鮮明に残っている。ビデオが出ている噂を聞いたこともある。できれば、手がかりとして、機会があれば手に入れたい。 調べによると翌日、熊本県内の衣料品店、靴屋にはビショ濡れのお金を握り締め、何かを達成した満足感に満ちた、笑みに溢れた多くの若者が立ち寄ったという。 伝説の聖地アスペクタは僕にとっては特別な場所。想い出の場所。想い出の場所は約束の日、約束の場所と化して新しい伝説を今も作りだしている。そして阿蘇の大地にたくさんの足跡が残っている。 |
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