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COLUMN
力丸

2001.11.1


悲劇はまだ始まったばかりだった。
『ビートチャイルド』は終わり、嵐の夜は明けた。駐車場に停まった車はぎっしりと詰まっていて駐車場から出るどころか身動きがとれなかった。車の中で焦りを感じながら、成す術もなく寝るしかなかった。力丸でメンバーが待っている。携帯電話やポケベルが普及していない時代にそんな中連絡することすら出来ず、苛立ちを隠せない。動き始めた車のタイヤはあちこちで空回りして、上手く進まない。ブレーキを踏むとずるっと滑る。駐車場から脱出することができたのは既に昼近かった。行かなければいけない。
やっとの思いで辿り着いた時間はリハーサルはもちろん、本番までも終わっていて後片付けまでも終わっていた。力丸という野外スケート場でイベントがあり、ヒメノギリカとかいうアイドルタレントの前座のようなものをやることになっていた。下手なコピーバンドがギャラまでもらってこんなことができるのはとても貴重な大事な演奏で折角のご好意、関係者一同ご立腹、メンバーもキレていた。キレて当然だ。僕らが到着してすぐに音が出せるように、いろいろとセッティングを終わらせ、準備していたのだ。待ち続け、謝り続け、何も出来ず、片付けたのだから、大変なことになっている。僕らも早めに抜けて行けるつもりが、こんなに足止めを食らうとは、夢にも思わなかった。すべてのスタッフに深く謝罪し、力丸を後にした。ヒメノギリカってどんな人だろう。今だに見たことがない。
そのとき僕の片足が裸足だったことは言うまでもない。
メンバーで喧嘩はいつものことだったし、その事でねちねちと小言を言うようなことはなかった。しかし、それからしばらくして活動を自然休止、消滅していった。以来、僕はギターを殆ど握らなくなった。

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