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COLUMN
日伊戦

2001.11.8


11月7日日本vsイタリア戦。これまで日本が親善試合として消化してきた試合は、フル代表と呼べる布陣ではなかった。今回は双方がW杯を想定した試合となり、意気込みも異なり、ほぼベストメンバーでの対戦となった。スーパースターとも、ファンタジスタとも呼ばれる顔ぶれは、セリエAでもトップクラスの選手が勢ぞろい。そろいすぎてる。
さいたまスタジアムはアナウンスが聞き取れないほどの大観衆で。入場の際は中に入るのに手間取ったようだが、6万人の大観衆。大きな事故が起こらなかったことは、W杯水準の警備やシステムが作動しているといえ、機能の面では支障がないことを意味する。
工藤静香が君が代を歌う。いつも考えてしまうが。他の国の殆どの選手が、胸に手を当てて国歌を歌うのに、日本の選手というのはそれがない。戸田がモヒカン頭を坊主に丸めなにやらひとりカメラのほうを向いて歌っている。何かが違う。
19時20分キックオフ。ものすごいフラッシュの光る中、22人の戦士が動き始めた。試合前日の記者会見でトルシエ監督は今の日本、イタリアと10回戦って、1勝、1分け、8敗だと語った。ひいき目にみてもやはり相手が強すぎる。
楢崎、松田と欠いた穴に宮本、曽ケ端。日本のスタメンはGK/曽ヶ端、DF/森岡(右)・宮本(中)・中田浩二(左)、ボランチ/戸田・稲本、右サイド/波戸、左サイド/小野、トップ下/森島、FW/柳沢、高原。
開始からタッチラインを割る勿体無いプレーが目立つ。プレッシャーの中にあって、これは仕方ないのかと思っていた。前半10分。左サイドで小野が囲まれボールをキープもつれながら横に出したボールに稲本がすうっと出てクロスを入れる。ボールの行方を追うとイタリアのディフェンスともつれ合いながらぴょこんと出た右足のつま先にボールが触れる。柳沢。ボールがネットを揺らした。まさか。まさかの先制点。これまでの強豪戦では、オリンピックのブラジル戦やスペイン戦でもあったような偶然や幸運がもたらす得点ばかりだった日本がきっちりと、しかもFWが機能して得点した。僕は歓喜の絶叫をあげてしまい、子供の顔をみると涙ぐんでいた。
稲本。ゲーム感を心配していたが、まったく心配ないようだ。むしろあたりに強くなった。何度かゴール右でFKを得るが、この位置俊輔が蹴れば得点になるのに。CKもそうだ。右からのCKは彼が蹴るのが一番。その後、前半は日本とイタリアが入れ替わったかのように、ボールの支配率は日本が高く、圧してしいた。それでも前半終了間際、否な位置でファウルを獲られ、FK。刹那にトレッキーな早いリスタートで脇にすっと出したボールを豪快にシュート。DFはまったく動けず。しかし、GKは反応している。なんと日本がリードして前半終了。
後半、両チーム次から次に選手を入れ替える。そんな後半6分。CKから混戦のなか、交代出場のドニに振りぬかれたボレーで同点ゴールを決められた。トッティやデルピエロも途中交代。イタリアの選手の動きが良くなっているのか、日本の選手の動きが悪くなっているのか。西澤・服部・中山・明神投入。中山の投入でスタジアムが沸いたときには終了間際だった。そのまま試合は終わり。歴史的な引き分け。柳沢の伝説のボレー。10回に1回の引き分けだった。人間欲が出る。引き分けだったら、勝てたかもしれない。必ず勝機はある。今回の試合で皆が実感している。そして世界的なレベルでW杯ともなると個人的な能力より、気力・士気が重要で、部分的に日本がイタリアを上回っていた。持てる力をして如何にそれ以上のものを発揮するのか。トルシエ監督が日本に与えてくれたものは大きい。
試合終了後、スタジアムコートを着て項垂れた俊輔にヒデが肩を組んで歩いていた。どこか励ましているようにもみえた。
「おまえを使わないなんて馬鹿な監督だよな。おまえが出てたら勝ってたのにさ」
「出たかったっす…」
「世界はお前をまってるぜ」
そんな風に聞こえたのは僕だけだろうか。

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